<水平的補完関係による役割分担>
樋渡市長への取材後、武雄市役所内を見学した。まず、「いのしし課」「facebook city課」といった、これまで訪れた役所では見かけなかった部署名が目に留まる。
「出身である総務省とは逆のことをやればいい」。樋渡市長は子どもからお年寄りまで、漢字ばかりが羅列する堅苦しい市の部署名を、すべての市民にわかりやすい名称へと変えた。市民目線の姿勢がうかがえる。
かつての「農林商工部」は「営業部」となった。その「営業部」では、職員同士がすぐに情報交換ができるよう、円卓状に机を並べ替えている。樋渡市長は適宜、職場を見回り、職員たちに声をかける。15階建てに職員数千人が働いている役所では、とても見られない光景だ。トップと構成員の意思疎通が容易にできることは、コンパクトな組織ならではの強みである。
一方、行政組織のマネジメントについて樋渡市長は、前田敏美副市長の存在を強調する。「人事も予算も編成権も前田副市長に全権を掌握させています。僕は民間で言うところの会長兼CEO。副市長は、代表権を持たない社長兼CFO兼COO兼最高執行役員なんです。そして、お互いに拒否権を持っている。僕がやりたいと思っていることでも、副市長がダメと言える。トップに権限が集中していないので、風通しがいいんです」という。
「役割が違うだけ」。職員との関係は『水平的補完関係』とする樋渡市長は、次のように語っている。
「切った張ったは僕がやる。僕ができない緻密な仕事を副市長以下、職員さんにやってもらう。役割が違うだけでフラットな関係だと思っています」。
「なぜ、ほかの自治体が失敗しているかと言えば、市長が副市長以下の仕事をやるからです。僕は政治家なので、大きな決断をすることが仕事。決済文書なんて見たことありませんから」。
アイディアを実現していくプロセスには、スタッフ(市職員)の存在が欠かせない。組織のマネジメントを最適化している樋渡市長のもとには、自分の能力を発揮しようと、それこそ中央官庁からも人材が集まっている。
※記事へのご意見はこちら